〈実験〉錯体化学・無機合成化学
みなさんこんにちは。
今回も以前から続いて遷移金属錯体を合成していきたいと思います。遷移金属錯体合成シリーズはニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)と続いてきましたが今回はコバルト(Co)です。錯体と言ったらこの元素は外せません。
●合成ターゲットについて
今回はヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物を合成します。色は橙黄色でコバルトブルーのイメージがある人には新鮮に思えるかもしれません。6つ(hexa)のアンモニアがコバルト(Ⅲ)イオンに配位した八面体構造を持っています。
コバルト(Ⅲ)イオンという物質、化学を勉強した人には分かるかもしれませんがとても不安定で試薬としては扱えません。そのため酸化剤を用いてin situで発生させます。すなわち反応容器内に安定なコバルト(Ⅱ)イオンと配位子となるアンモニアを入れてさらに酸化剤を加えることで不安定なコバルト(Ⅲ)イオンが発生した途端にアンモニアに配位させて安定な錯体を形成させるという方法を取ります。
化学反応式は以下です。
Co³⁺+6NH₃+3Cl⁻+→[Co(NH₃)₆]Cl₃
●歴史
さて、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物を語る上で外せない話題があります。化学史における錯体化学の起源です。当時ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物は、コバルトイオンとアンモニアと塩化物イオンからなる物質であることは組成式から判明していましたが、構造は解らないままでした。そこでスイスの化学者ヴェルナーがこの物質をはじめとする錯体は配位結合によって形成されるということを提唱しました。そしてヴェルナーは錯体の研究で1913年にノーベル化学賞を受賞します。この受賞は無機化学分野では初でした。錯体と配位結合の考え方は今でこそ高校の教科書にも載っているほど当たり前のようなものですが当時それを提唱し錯体化学を切り拓いたヴェルナーは言うまでもなく偉大であり、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物は錯体化学の原点となる記念すべき物質なのです。
●実験
※注意
濃塩酸、濃アンモニア水は皮膚粘膜刺激性・腐食性を有します。過酸化水素水は皮膚粘膜腐食性を有します。塩化コバルト(Ⅱ)六水和物は皮膚粘膜刺激性有する重金属塩です。エタノールは麻酔性と引火性を有します。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。
〜材料〜
・塩化コバルト(Ⅱ)六水和物
・塩化アンモニウム
・濃アンモニア水
・濃塩酸
・30%過酸化水素水
・エタノール
・活性炭
〜器具・装置〜
・適当容量ビーカー
・ピペット
・氷浴
・吸引ろ過器
・ホットマグネチックスターラー
①ビーカーに塩化コバルト(Ⅱ)15gと塩化アンモニウム12gを入れて熱水30mlに溶かす。
②氷浴で冷却してアンモニア水30mlと活性炭を薬さじ1杯加える。
③攪拌しながら30%過酸化水素水6.0gを徐々に滴下する。滴下後24時間攪拌する。
④生成した沈殿をろ過で回収する。
⑤0.2mol/L塩酸90mlに加熱溶解する。
⑥熱時ろ過で活性炭を除去する。
⑦ろ液を加熱して濃塩酸30mlをゆっくり加える。液が濁ったら熱水を少量加えて透明に戻す。
⑧氷浴で冷却して結晶を析出させる。
⑨吸引ろ過で回収する。
⑩ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物が得られた。
今回はおまけとして別のコバルト錯体を作ってみます。ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物からアンモニアの配位が一つ減ったペンタクロロアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物です。前者がルテオ塩(黄色の意)で呼ばれるのに対して後者はプルプレオ塩(紫色の意)で呼ばれます。それでは早速作ってみましょう。
●実験
※注意
濃塩酸、濃アンモニア水は皮膚粘膜刺激性・腐食性を有します。過酸化水素水は皮膚粘膜腐食性を有します。塩化コバルト(Ⅱ)六水和物は皮膚粘膜刺激性有する重金属塩です。エタノールは麻酔性と引火性を有します。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。
〜材料〜
・塩化コバルト(Ⅱ)六水和物
・塩化アンモニウム
・濃アンモニア水
・濃塩酸
・30%過酸化水素水
・エタノール
〜器具・装置〜
・適当容量ビーカー
・ピペット
・氷浴
・吸引ろ過器
・ホットマグネチックスターラー
①塩化アンモニウム12gにアンモニア水48mlを加えて溶解させる。
②塩化コバルト12gを加える。
③氷浴で冷却しながら過酸化水素水4.8gを滴下する。24時間攪拌し続ける。
④濃塩酸72mlを加えて80度で20分間加熱する。
⑤氷冷して結晶を析出させる。
⑥結晶をろ過で回収する。エタノールで数回洗浄する。
⑦ペンタクロロアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物が得られた。
今回はコバルトの2種類のアンミン錯体を合成しました。アンモニアの配位数が1つ異なるだけでここまで色が変化するなんてやはり化学は不思議ですね。橙黄色と赤紫色、サツマイモのようなハロウィンのような、秋にピッタリ(?)な実験でしたね。それでは次回の実験までさよなラジカル。
えざお

化学部・バイオ部のおうちラボケミスト兼バイオハッカー見習い。まだまだ勉強中の青二才。一応環境分析化学専攻だったりする。有機化学が好き。自信は無いのでどうかお手柔らかに!