[第27回おうちラボで実験してみた]抗炎症薬サリチル酸メチルを合成してみた。

〈実験〉有機合成化学・医薬品化学

みなさんこんにちは。今回は消炎薬として用いられるサリチル酸メチルを合成していきたいと思います。湿布などの外用薬として利用させるほか食品香料、マウスウォッシュ剤としても用いられています。天然にはウィンターグリーンと呼ばれる植物群に存在し、精油として得られます。

またサリチル酸メチルは経皮吸収によって体内に取り込まれ、サリチル酸系と同様にプロスタグランジン類の生成を阻害して鎮痛作用を示します(第7回座学参照)。

●合成について
サリチル酸のカルボキシ基を濃硫酸触媒の下メタノールでエステル化するだけで得られます。反応機構は次の通り。

カルボニル炭素にメタノールの酸素が求核付加し、四面体中間体を経由して最終的にOH基がプロトン化して水として脱離します。
反応自体は(機構は置いといて)高校で習います。しかし、サリチル酸のヒドロキシ基をアセチル化した「アセチルサリチル酸(アスピリン)」とサリチル酸のカルボキシ基をメタノールでエステル化した「サリチル酸メチル」がどちらも医薬品として用いられるためごちゃ混ぜになる人が多いです。「塩化鉄(Ⅲ)水溶液で呈色するのどっちだっけ…」などとならないようしっかり区別できるようになっておきましょう(ちなみにサリチル酸メチルはフェノール性ヒドロキシ基が残っているため呈色する)。

●実験
※注意
濃硫酸は皮膚粘膜刺激性・腐食性を有します。メタノールは強い毒性を有します。サリチル酸は粘膜刺激性を有します。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

〜材料〜
・サリチル酸
・メタノール
・濃硫酸
・炭酸水素ナトリウム
・モレキュラーシーブ3A

〜器具・装置〜
・250ml丸底フラスコ
・50ml丸底フラスコ
・三角フラスコ
・ジムロート冷却器
・分液漏斗
・単蒸留装置
・オイルバス
・スターラー付きマントルヒーター
・ホットマグネチックスターラー
・冷却水循環装置
・水流式アスピレーター

①サリチル酸40gをメタノール150mlに溶かす。

②濃硫酸32mlを慎重に加える。

③加熱還流を2時間行なう。

④反応液を分液漏斗に移し飽和炭酸水素ナトリウム水溶液30mlを加えて揺り動かし、触媒の濃硫酸を潰す。これを2〜3回繰り返す。

⑤下層の有機層を回収してモレキュラーシーブで乾燥させる。

⑥オイルバスで減圧蒸留精製を行なう。

⑦サリチル酸メチルが得られた。収率は65.36%であった。

今回めでたくサリチル酸メチルの合成に成功しました。匂いは湿布の独特な感じそのままです。医薬品ではあるものの実験生成物は人体に使用できません。また、サリチル酸メチルは食品香料に使われている物質でありながら毒性が高くたった6gで成人男性の致死量に匹敵するらしいので決して口にしてはいけません。大人しくコレクションに加わってもらいましょう。それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお

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